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画廊シェーネの
『たまさか よもやま考』
バックナンバー
★2002年1月

洋紙修復家 谷村博美さん


今月は、洋紙修復家として高名な
谷村 博美さんに再び、ご登場いただきました。
  2001年秋には、大阪国際美術館で 「洋紙修復の技法」
について講演されるなど、このところ多忙を極める
谷村さんの「オランダからの発信」です。
(原文のまま)


尚、皆様がご所蔵される紙の作品の修復に関することで
御相談されたい方は、
谷村さんをご紹介させていただきますので
以下の当方宛メールアドレスから、その内容をお書きの上
お問い合わせ下さいませ!


E-Mail :inform@gallery-schoene.com



今回のオランダ滞在は八月の始めから十月の始めまででした。
さて、まずめぼしい展覧会のお話から入りましょう。
とはいうものの、今回、本当にここでご紹介したいのは、
ロッテルダムにあるボイマンス美術館で九月から始まった
"ヒエロニムス・ボッシュ展"のみです。

 ヨーロッパでも本当に良い展覧会は、大抵秋に行われます。
ただ世界中から 人が集まるような大展覧会はやはり夏、
夏休みを利用して来てもらうためです。
このボッシュ展もそういう展覧会で、数少ない彼の作品を
かなりの数集め、さらに同時代の作品、またボッシュに影響を受けた
作品などを一緒に展示していました。
今世紀のものではジェームズ・アンソールやダリの作品が出ていました。
これはボイマンス美術館の独自性でしょうか。

 十年余り前、私はここでも修復の実習生として三ヶ月働きました。
正しくはボイマンス・ファン・ベウニンゲン(Boymans van Beuninngen)
美術館という名で、ボイマンスとファン・ベウニンゲンによって建てられた、
古典絵画から現代美術に至る幅広いコレクションを誇る私立の美術館です。

 ボッシュは、1453年生まれですが、時代的にはすぐその後に続く
ブリューゲルと共に、フレミッシュ絵画の最も初期に位置して、
恐らくその最も有名な作家と言っても
過言ではないと思います。人間性をえぐるような日常生活の絵も
ありますが、何とも神秘的で、不思議な想像上の生き物の
うごめく地獄の絵のみならず天国や、私たちの生きる
この世の有様も彼は絵にしました。

その頃のヨーロッパのごく北方にあたるこの地域ではキリスト教は
人々の頭の中では、まだまだ昔からの異教の世界と混ざり合った
状態だったのでしょう。
でも最も人に知られているボッシュの絵はトンネルの向こうに眩しい
明るい光が射し込み、手前の暗い丸いトンネルには天使たちに助けられて
そこに向かって宙を行く人たちが描かれている、あの臨死体験をそのまま
絵にしたような作品かもしれません。

 もう一つ、私の帰国前に始まった小さな展覧会があります。
ヴァン・ゴッホのドローイング展です。ヴァン・ゴッホ美術館の新しい別館、
と言っても黒川記章さんのデザインで完成以来、もう二,三年になりますが ---
で開かれたものです。ヴァン・ゴッホ美術館のコレクションの全て
と言うことでしたが点数はごく限られていました。
ゴッホの調子が悪くなるというか、頭がおかしくなる時期、
エッと思うような稚拙とも思えるようなデッサンがありますが、
そういうのも出ていて楽しみました。

 次回は私が住み、私が働く美術館あるデルフトのお話をと書きましたが、
どういう訳か今回は仕事はともかく、デルフトには住みませんでした。
実は何度も書きますが、王立武器軍隊博物館で働いていて、
今回いつも世話になる友人宅に問題があり、結局、デン・ハーグにある
兵舎に住みました。
兵舎というから男性しかいないバラックだなどと思わないでください。
現代、ちゃんと女性の兵士もいる時代です。豪勢ではありませんが、
女性用の棟に住んで、食事はカンティーンでした。
というと、また、「まずそう!」思う方がいらっしゃるかと思うのですが、
さにあらず。美味しくて、若い兵士たちを健康に保つ食事ですから、
ちゃんとバランスの良いお食事を、しかもワイン付きで、たったの三百円か
四百円で食べることが出来ました。

 三年ほど前に、私のいる美術館で軍隊での晩餐会のメニューの
展覧会を開いたことがあります。二十世紀前半のものですが。
当時有名だった作家に晩餐会の度にメニューの装幀をを依頼するのですが、
なかなか小粋なものが多く、メニューの中身はむしろ
大変贅沢なものでした。その時、決して軍隊というところは
無粋なところではないと感心したものです。
ちなみにこの展覧会はこの美術館の展覧会で
私が最も気に入ったものの一つです。

少し話が飛びますが、ちなみにオランダではつい二,三年前まで
徴兵制を取っていました。若い人たちは皆、高校を出ると一年か二年、
お国のために働きました。
北欧並に社会福祉の進んでいるオランダの制度とは、
今は終わったとはいえ、驚きますね。

ところで例のニュー・ヨークでの同時多発テロのあった時は大変でした。
もちろん兵舎にいたのですから。まるで戒厳令下のような緊張状態で、
兵舎の敷地は恐ろしく広いのに、正門以外全ての門は閉じられてしまい、
パスを兵士に提示するのもずっと厳格になりました。
というわけで、今回はちょっと変わった経験をしてきましたので、
美術のお話しとははずれてしまいましたが。


        2001年初冬  谷村 博美 (デルフトからの通信)
 

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