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安徳 瑛の作品と生涯 その1
  The Works and His Life of ANTOKU Akira : No1


画廊シェーネ 店主 奥田 聰 敬白
Galerie Schoene OKUDA Satoshi




“ 形成の画家、安徳 瑛 この稀有な魂は、決して眠らない! ”


1月30日、その日が最後の面会日となった。
生涯忘れることの無い数分間であった。
病床の安徳は、ベッドの縁に腰をかけ、
身体全体で大きく苦しげな息を吐き、
いつにない早口で喋ろうとした。その姿は尋常で無く、
身を乗り出す安徳の膝に触れて、私は愕然として言葉を失った。
そぎ落とされた肉の向こうには、ただ弱々しい
棒のような骨がある だけであった。
「こんなひどい目にあったのは、初めてだよ、、、
僕は必ず元気になって絵を描くから、、
今、アイデアが一杯あるんだ、、」
その瞬間、安徳の瞳が輝いた、、
2日後の2月1日深夜、息を引きとった。55歳であった。


写真は、1991年11月
【 鹿児島・櫻島の朝日を錦江湾岸から見つめる作家 】


 画家、安徳 瑛は、自己の内的衝動や認識の変化に棹差しつつも情に流されず、緊張ある
統一した画面の実現にむけて(それは、作家の遠い記憶の中の普遍的な造形を確認する作業
でもあった)常に創意と工夫を重ねた。がその創意に溺れることは無く、最後まで柔軟な
思考と制作欲を持ち続け、その生涯を閉じた。
 絵画の限定された平面性の枠の中で、その制約を超える深い表現を模索し続けた今日実に
数少ない、真っ当な画家であった。
 今後、作家の遺した作品や詩、散文、絵画論などが検討され、「安徳 瑛の作品と生涯」
を詳らかにしたものが刊行されることが望まれる。その時には、この優れた画家に関し、
さらに理解がすすむものと思う。

 安徳 瑛の作品を、私は概観して8つの時代に分けて考えている。

 第1期は、1960年代前半の初期作品群(かって私が出版した安徳 瑛の初画集
編集後記でも述べたが、特に1980年代以降の作品の骨子とみなせる)の理性的かつ
直感的な
「抽象的フォルムと色面の時代」である。
次は、1960年代後半から70年代 前半の
30才前後の時期で、暗中模索の日々を送り、銅版画の制作にも没頭した
「シュールやポップに学んだ時代」
そして第3期は、1970年代後半までのリアリズム的具象回帰と
動線思考の
「黄色の時代」である。
第4期は、スペインとフランスへの旅行が転換の契機と なったと自ら語る
80年代初頭の
「白とスクラッチの時代」
さらに1983年頃から始ま った 第5期は、一般に安徳の俯瞰構図として知られる
「多視点の時代」で、
この時期から 安徳 瑛の世界は、飛躍的展開を見せ始めている。
次の第6期は、1990年から91年 の前半にわたる「叙情的造形の時代」
続く93年までの第7期は、
「統一ある黒の時代」 へと移り、
次第に内省的な表現が顕著になってくる。
そして94年から95年の最後の一年 となった第8期は、
天恵といっても過言ではなく、完成度の高い、
いわばこれまでの道程は いよいよここに帰結してきたのかと首肯させられる
「せめぎあう白と黒の時代」に入り、 その幕が開き始めたところである。

 安徳 瑛の存在意義は、 究極の造形をつかむためのこの変遷過程にこそあって
多様な 画風の制作途上で顕著に見せた、画家としての好奇心旺盛な精神と
憎めない魅力ある人間的 側面が作家の周辺におのずと人を集めた。
また個人主義を標榜する教育者としての一面は、
偏った見方を戒め、好き嫌いを問わず優れた点を正しく評価しようとする鷹揚で寛大な
画家の態度を明白に提示したことにあると、私は考えている。

 絵画性重視の作家の姿勢が、ときに文学的思考、情緒的思想を尊ぶ一部の識者から誤解を
招き、画家として十分恵まれたと必ずしも言えなかったことは、なまじの様式に縛られ、却って
その知られたスタイルに固執するために自らをひとつの型にはめることで、自己模倣に陥る愚を
繰り返さざるを得ない多くの凡庸な画家たちとは、
少なくとも安徳 瑛を別個の存在に成さしめたと思うのである。

 権力や通常の見方に動ぜず、自らの裡にある造形を見つめ続けじっくりと熟成させてき た
この稀有な魂は、決して眠ることは無い。
 死してなお時代の経過と共に、多くの理解者が増えてくることをひたすら望むのは、
私一人では無いであろう。

  

1996年3月  フェーマス6月号「安徳 瑛 追悼号」投稿文を一部修正 

         

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